下咽頭食道重複癌や胃切除後食道癌、一次再建に失敗した食道の二次再建などは、これまで結腸による再建に殆んど限られ、結腸に病変をもつものや腹部手術の既応例で癒着の高度なものは再建が極めて困難であった。微小血管吻合術の進歩とともに遊離腸管移植が安全に行われるようになり、再建は新たな時代に入ったと思われる。これまで下咽頭頚部食道を遊離腸管で再建することは技術的にもほぼ確立され、当施設でも多くの症例を経験した。しかし先に述べたような長い距離を遊離腸管で再建するには2カ所の血管吻合が必要となるかといった大問題や、腸管の虚血時間の限界、腸管の食物輸送器官としての運動能など多くの解決しなければならない問題がある。これらはモデル実験で技術的に十分可能と思われた。臨床例の到来を3年間待ったが機会がなかった。しかし一般的な遊離空腸移植症例は50例を越え、確立された能式として認められるに至った。安全性のみならず術後の嚥下機能に関しても十分に検討を行い、学会発表、学会誌発表を行った。遊離空腸移植による下咽頭および食道再建法は、生体に対する侵襲が少なく安全に実施できるだけでなく、胃や結腸といった重要臓器を犠牲にしないため術後の機能面からも大変優れた形式との結論に達した。また遊離組織移植として、遊離皮弁を用いた口腔再建も同様に試み30例以上を実施した。これらの術後のモニタ-としてレ-ザ-血流計を用いたが、非侵襲的できわめて有用であった。術後の嚥下機能に関する検討も多く行い、学会発表、学会誌発表を行った。以上の遊離組織移植の臨床における手術をビデオに記録し学会発表を繰り返したが、多くの臨床家の賛同を得られほかの施設で実際に試みられていることは喜ばしいことである。
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