胆道癌は結石や胆汁うっ滞、活性化膵酵素などによる慢性炎症が何等かの関与をしていることが推測されているものの、詳細は不明である。発癌過程の第一歩として、発癌物質の活性化及びこれによる標的細胞DNAの損傷があるが、出願者は慢性炎症による上皮細胞の変性及び再生はこのDNA損傷感受性を増大させると推測しており、細胞回転を増加させるといわれる、ホルモン、コレステロ-ル、胆汁酸などの、DNA損傷性に及ぼす影響を検討している。本年度は出願者が佐賀医大に転任したため、培養環境の設立を必要とし、当初の計画の大幅な変更と遅延を余儀なくされた。これまで使用してきたウシ胆嚢、胆管が利用できなくなり、材料をヒト胆石症胆嚢とウサギ胆嚢に変更し、まずこれらの単離及び培養条件の設定を行った。ヒト胆嚢は胆石症のため、炎症の軽度な胆嚢は少なく、スサギ胆嚢は小さいため、細胞収量が少ないといった不利な状況となった。しかし、コラ-ゲンマトリックス内に立体培養を試みたところ、ヒト胆嚢でも、ウサギ胆嚢と同様に、培養当初の細胞塊が一週間後にはさらに大きな球状となり、嚢胞を形成することが明らかとなった。コラ-ゲンマトリックスの層が薄すぎたため、二週間後にはマトリックスが剥離し始め、培養は維持されたものの増大は停止した。また、これらの細胞では、これまで用いてきたアルカリ及び中性溶出法によるDNA損傷の検出が困難ななめ、ニックトランスレ-ション法によるDNA一本鎖切断検出を行うこととし、材料の準備が容易なラット肝実質細胞培養を用いてこの導入を検討した。当初、コントロ-ル細胞群のニック(バックグラウンドを含む)が高く、発癌物質によるニックとの有意差を得にくい状況であったが、操作に用いるピペット等に付着する自然界のDNAaseを極力除去する努力をすることにより、肝細胞培養でのin situニックトランスレ-ションの条件設定に成功した段階にある。
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