研究概要 |
大腸癌における癌遺伝子rasの活性化の臨床腫瘍学的意義、特に悪性度との関連を明らかにする目的で、抗vーHーrasモノクロ-ナル抗体(Y13259)を用いた免疫組織染色(ABC法)及びcKiーrasをプロ-ブとしたノ-ザンブロット法により、癌組織におけるras p21の発現とKiーras mRNAの発現を調べ、臨床病理学的諸因子、予後との関係を検討した。 (結果)ras p21の発現は、対象進行癌45例のパラフィン包埋切片について検討し、14例(31%)に発現が認められた。発現陽性例は陰性例に比べ、有意に腫瘍径が大きく、リンパ管侵襲、リンパ節転移が高率に認められ、さらに手術時に肝転移の存在する頻度は、陰性例31例中4例(13%)に対し陽性例14例中8例(57%)と陽性例で高率であった。それにより、陽性例の治癒切除率は陰性例のそれに比し有意に低く、予後も不良の傾向が認められた。治癒切除後の再発に関しては、ras p21の発現の有無では差は認められなかった。Kiーras mRNAの発現は、26例の新鮮凍結標本について検討し、発現は14例(54%)に認められた。癌部、非癌部における発現の頻度は、癌部で明らかに高率であった(p=0.057)。病理学的諸因子や予後との関係は、免疫組織学的検討で得られた結果と異なり、明らかな関係は認められなかった。 (考察)免疫組織学的にras p21の発現が陽性と判定された症例は、手術時に癌の進行程度が高度で予後不良であり、ras p21の大腸癌の悪性度との関連が示唆され、悪性度判定の一指標になり得ると考えられた。一方、Kiーras mRNAの発現は、大腸癌の進展や予後との関連がないと考えられた。我々の用いた抗vーHーrasモノクロ-ナル抗体は、Kiー,Haー,Nーrasのいずれのproductとも反応することから、現在、Kiーras以外のras mRNAの発現を検討中である。
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