研究概要 |
膵外傷や一部の膵良性腫瘍の手術では、残膵の膵管どうしを吻合する再建術式が、膵の消化機能やホルモン分泌上の機能を温存する上で最も望ましい。しかし、従来の針と糸を用いて膵管どうしを吻合する縫合吻合では,長期的には吻合部膵管の閉塞を来す傾向が強く、膵機能を長期にわたり十分に温存するのは困難であった。本研究では、犬を用いて、膵管どうしを十分に長い間開存した状態に保つことの出来る吻合術式を開発した。すなわち、生体内で分解されかつ無毒である乳酸ポリマ-チュ-ブを膵管吻合部に挿入し、かつ吻合部断端どうしを生体接着剤であるEECAKを用いて接着吻合する方法である。12匹の成犬を、縫合吻合群と接着吻合群の2群に分け、各々6匹づつにそれぞれの方法で膵管ー膵管吻合術を施行した。その後,経時的に採血をして血清生化学的に膵機能を推定するとともに、約1年後に屠殺し、剖検および膵実質と膵管吻合部の病理組織学的検索を行った。縫合吻合群の6匹では全て吻合部が閉塞し、それより上流の膵実質組織は変性してほとんど残存していなかった。一方、接着吻合群では6匹の内3匹が膵管吻合部は開存しており、これは縫合吻合群に比較して推計学上有意(P<ao5)に開存率が良好であった。またこれらの犬では、吻合部より上流の膵実質に慢性膵炎の所見は見られるものの、縫合吻合群のものに比べると明らかに膵実質組織の変性は軽度で、膵管吻合部より上流域の膵機能が温存されていると考えられた。血清生化学的検査では、接着吻合群と縫合吻合群の検査結果には推計学的な有意差はないものの、これは、ヒトと犬の膵の形態学的したがって手術操作上の差によるものと考えられた。以上より、接着吻合法による膵管ー膵管吻合再建術式は、従来の縫合吻合法による膵管ー膵管吻合再建術式に比較して吻合部での瘢痕形成による閉塞の生じる頻度が低く、膵機能の温存により適した方法と考えられた。
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