研究概要 |
I)開心術症例(n=83)においてSignalーaveraged ECGで得られる指標であるRMST(root mean square total:filtered QRS全体の平均電位、単位:μV)を、術前、術後に経時的に測定し心筋障害や血行動態との関連を調べた。RMSTの術前値は平均104±62μV、拍動再開直後は73±53μV(P<0.001 vs.術前値)、翌日は92±55μVであった。拍動再開直後において心筋障害の定量的指標であるCPKーMBとの関係を調べると、150IU以上を示した7例の拍動再開時のRMST術前値比は平均43±26%であるのに対し、150未満の76例は平均77±40%であり、CPKーMBが高値を示すほど、RMSTは有意に低値を示した(P<0.05)。術直後にIABPを使用した17例のRMST術前値比は平均48±25%であり、使用しなかった66例の平均77±40%に比べて有意に低値を示した(P<0.005)。全83例中の最低の5例はそれぞれ、12、15、16、19、26%であったが、その内3例が死亡、4例が補助循環(BVAD,RVAD,IABP)を必要とし、5例の平均CPKーMB値は303IUであった。拍動再開直後にRMST低値を示す症例は心筋障害を背景に持ち、その結果として術後の不良な血行動態の予測が拍動再開直後に可能であった。 II)拍動再開直後冠動脈攣縮により急速にショック状態に陥った1例では、STの上昇が高度になり、血圧が低下するにつれてRMSTは低下した。その後遷延する補助循環(BVAD)中に血行動態に先行してRMSTの上昇傾向をみとめ、補助循環を離脱することができた。補助循環症例にRMSTを経時的に測定し、比較することにより心筋障害の回復を定量的に示すことができ、補助循環の離脱に際し、心臓に負荷をかけない評価法として応用できる可能性が考えられた。
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