研究概要 |
同種気管移植に関する研究は、肝や腎などの同種移植がすでに臨床に応用されているに対して,末だ緒についたばかりともいえる。不明の点も多く同種気管移植では拒絶反応の問題もさることながら、移植気管片の血流維持が重要である。そこで犬の同種気管移植を行い大網で被覆し、大網血流の良否による移植片の生着の差について検討した。 対象とは方法は雑種成犬12頭を用い,静脈内麻酔で全身麻酔後,気管内挿管して人工呼吸器で管理しつつ、頚部正中切開により気管5軟骨輪の同種移植を行った。その後、腹部正中切開し有茎大網弁を作成して頚部に挙上し、移植片を被覆した。大網弁は犬により血流の豊富なものと不良なものに2分し、移植片の生着を比較した。免疫抑制剤は用いなかった。また、気管支ファイバ-スコピ-を行い、術後の移植片の状態を観察した。移植片の縫合にはモノファラメントの吸収系を用いて、2点支持の連続縫合を行った。抗生剤は術中にのみ投与し、他は用いなかった。 結果、術後1日以上生存したのは10頭で,このうち大網不良群(5)頭の生存日数は18.4±6.47日であったのに対して、良好群(5頭)では34.6±6.80日と有意に長かった(P<0.01)。気管支鏡所見はほぼ全例で気管の狭窄と白範付着を認め、1例を除き移植片が融解消失し気道閉塞で死亡した。術後1日以内で死亡したのは、頚部の皮フ縫合の啅開と、術後のイレウスによるものであった。移植片を有茎大網弁で被覆することにより有脩に生存日数が延長した。大網弁に使用によりヒトでの気管移植にも道が開けるものと思われた。
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