研究概要 |
本年度は本研究の最終年度であることから過去3年間に行なった研究成果の総括ならびに各結果の相関関係について検討を行なった。実験的には兎を用いて大槽内カオリン注入による髄液循環吸収障害モデルを作製し、脳室周囲白質の自由水含有量と結合水含有量ならびに全水分含有量を測定した。同一方法により作製した犬の髄液循環吸収障害モデルを用いてMRスペクトロスコピ-による水頭症脳のエネルギ-代謝を研究した。臨床的にはMRIを用いて脳室拡大症の脳室周囲白質と脳灰白質のT_1値とT_2値を求め生体水の組成の変化の含有量を検討した。髄液循環吸収障害に由る水頭症においては急性期、亜急性期には脳室周囲白質の全水分量には有意の増加は見られなかったが、急性期から亜急性期にかけて脳室周囲白質内には自由水分量が増加する反面、結合水分量は有意の低下を示した。慢性期には自由水分量、結合水分量はコントロ-ル値に復元した。この自由水分量と結合水分量の方化に応じて急性期、亜急性期にPCr/Piを指標にしたエネルギ-代謝が低下に、慢性期になるとこのエネルギ-代謝障害も正常近く復元する傾向が見られた。臨床的にも髄液循環障害による水頭症患者では脳室周囲白質のT_1,T_2値は共に延長するが灰白質のそれらは不変であった。また脳循環、脳血管障害による脳室拡大症ではT_1値の延長のみでT_2値はコントロ-ルに比し有意の延長は見られなかった。 以上要約すると水頭症においては脳室周囲の白質内に自由水が移行し、これによる脳実質損傷のため脳実質細胞内の結合水の減少をきたし、脳細胞のエネルギ-代謝の低下と共に天幕上脳血行動態の障害とその結果として遠隔効果に由る天幕下組織の血行動態の低下をきたし、神経症状の発現をきたすことが示唆された。
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