我々は、実験モデルにおいて、クモ膜下血腫内に多量の12ーリポキシゲナ-ゼ産物(12ーHETE)の存在すること、ならびに攣縮脳底動脈での5ーリポキシゲナ-ゼの活性化について報告している。今回の研究は、攣縮血管における5ーリポキシゲ-ゼの局在および12ーリポキシゲナ-ゼ産物が、遅発性脳血管攣縮を誘発し得るかを実験モデルにて検討することを旨とした。 ブタ白血球の5ーリポキシゲナ-ゼに対するポリクロ-ン化抗体(交叉性に関しては、犬白血球のサイトゾルを用いて確認した)を用いて、HRPー標識間接法にて犬正常および攣縮脳底動脈の5ーリポキシゲナ-ゼの局在を検討したが、両者ともに免疫組織化学的には陽性とはならなかった。これは、抗原量の不足が原因として考えられた。 次に、12ーHPETE(0.5mg)を犬大槽内に注入すると8時間以上のライムライを持ち、3〜5日持続する脳血管攣縮を作製し得た(自家動脈血一回髄注モデルに匹敵する)。12ーHETE(0.5mg)注入では、軽度の遅発性の収縮を認めたにすぎなかった。また、髄注した12ーHPETEは、髄液内で急速に12ーHETEに代謝され、12ーHETE自体も3時間で髄液中より消失していた。in vitvoにおける12ーHPETEの半減期を考慮すると髄腔内には、12HPETEを能動的に代謝・吸収する系の存在が示唆されるとともに、12ーHPETEは、遅発性脳血管攣縮の誘発物質であって、維持には関与していないものと考えられた。更に、血管攣縮誘発作用が、アラキドン酸の過酸化物(12ーHPETE15ーHPETE)に特異的なものなのか、あるいは、脂質の過酸化物一般に認められる作用であるのかを検討するため、リノ-ル酸の過酸化(13HPOD 0.5mg)髄注した。13ーHPOD注入により12ーHPETEより収縮は弱いが、むしろ長期間(2週間)持続する遅発性脳血管攣縮を作製し得た。このことより、遅発性脳血管攣縮の誘発作用は、脂質過酸化物一般に認められる作用である可能性が示唆された。
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