研究概要 |
水頭症治療法として脳室から他の体腔への髄液短絡術が多く行われるが、脳室の縮少の度合と、臨床症状改善の程度は必らずしも正の相関を示さないことがある。そこで吾々は猫におけるカオリン大槽内注入により得られた水頭症モデルを作製し、短絡術前後における脳室周囲組織の形態学的変化と水分量の変化を経時的に観察し、短絡術の有効性を、正常コントロ-ル群と、短絡術を施行したが有効でなかった動物と比較することにより検討した。 雑種成猫(体重3〜5kg)26頭を用いたが結果検討の対象となったのは短絡術有効群9、同無効群7ならびに短絡術を施行しなかった6頭の計22頭である。水頭症作製にあたっては頭蓋骨を両側にわたり広汎にわたり切除したものの硬膜の切除は行わなかった。過去に行った実験に際し硬膜を切除した群があり、これらとの結果も比較し考察に加えた。組織学的検査はヘマトキシリン、エオジン染色標本のほか、透過型電子顕徴鏡による検索を行い、脳室周囲組織の髄液循環動態の示標として乾燥重量法により水分量の測定を行った。 〔結果〕短絡術施行前、脳室周囲組織の水分量は、白質深部(67、2±0、7%)に比し壁直下では72、2±1、0%と水頭症では増加をみた。しかし深部の水分量は正常対照群に比し増加していない。短絡術有効群では壁直下水分量は70、9±1、1%と正常値を示したが無効例ではそれはみられなかった。無効例においてむしろ深部で70、3±1、3%と水分量は増加した。電顕による所見は、短絡術有効、無効両群ともに深部では正常群と同様の所見を示し、壁直下部分にみられるミエリン,アクソンの損傷はわずかに留まり細胞外腔の拡大もなかった。直下組織にはグリオ-ジスを認めた。今回血液循環の変化には実験が及ぼなかったが、短絡術の早期施行が重要であることが以上より確認された。
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