研究概要 |
これまでに我々は、ラットのクモ膜下出血(SAH)モデルを用い、超急性期の脳循環動態を脳血流量、硬膜外圧を連続測定することにより評価してきた。今年度はSAH後の脳血管を組織学的に観察した。組織学的にも強い脳血管攣縮をきたすSAHモデルとして、犬では大槽内自家動脈血2回注入法(double injection method)が広く用いられている。そこで、ラットにも自家血2回注入法を用いることにより、強い脳血管攣縮を惹起させうるかどうかを検討した。 方法:SpragueーDawley rat(male,200ー250g,n=30)を用い、自家動脈血を0.3ml/30sec.を大槽内に注入した。48時間後に再び自家血を0.3ml/30sec注入した。その後、2.5%glutaraldehydeで潅流固定し脳血管を光顕にて観察した。 結果:自家血を2回注入したのち24時間後に潅流固定した例において、光学顕微鏡下では中大脳動脈の内弾性板の皺縮がみられ、内皮細胞の一部が剥離している所見がえられた。これに対し、生食を2回注入したものでは同様の組織学的変化は認められなかった。 考察:ラットにおいても大槽内自家動脈血2回注入法を用いることにより、組織学的にも変化をきたす脳血管攣縮を作成できる可能性が示唆された。しかし、1回目の大槽内血腫注入後24時間以内に死亡する例が多く(n=18/27)みられ、また2回目の血腫注入直後に死亡するものも多かった(n=7/27)。一方、生食注入群(n=3)では、急性期に死亡する例はみられず、臨床経過においては血液注入群との間に明かな差があった。SAH後の晩期脳血管攣縮のモデルとするには未だ十分な生存する例数(n=2/27)が得られていない。今後さらに、1回注入後での組織学的な検索や2回注入の際の血腫量の再検討が必要と思われた。
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