研究概要 |
グリオ-マの生物学的特性を明らかにするため、悪性度の低いpilocytic astrocytomaに60ー90%の頻度で出現するRosenthal fiber(RF)をとりあげた。新生物に生じる変性過程と考えられるもの(RF)の本体を解析することを目的とした。過去6年間に摘出術により得られたすべての神経膠腫HE染色標本(東京大学脳神経外科症例)を検索し、9症例21検体のRFを認める標本(ホルマリン固定パラフィン包埋切片)を研究対象とした。内訳は、小脳星細胞腫3例、視神経膠腫3例、背髄星細胞腫2例(病理組織診断はpilocyticまたはfibrillary astrocytomaである)、と背髄神経節膠腫1例である。RFは、星細胞腫細胞内構造物で、エオジン好性、PTAH及び鉄ヘマトキシリン陽性、PAS陰性であった。免疫組織化学的検討では、抗GFAP抗体によりRF辺縁部が強陽性に染色されたが、RF中心部は陰性であった。抗PHFモノクロ-ナル抗体(DF_2:ユビキチンを認識する)と抗ユビキチンポリクロ-ナル抗体(Dr.Haasより供与)による染色では、いずれもRF辺縁部が陽性、中心部が陰性を示した。連続切片による観察では、HEでエジオン染色の薄いRF辺縁部がGFAP、ユビキチンともに陽性所見を示した。RF形成過程におけるGFAPとユビキチンの関与が想定された。(脳と神経42:59ー64,1990)その他、65歳男性で広範な大脳出血により死亡した小脳血管芽腫別例で、反応性星細胞中に出現するRFを認めた。倍検脳の検索により、血管芽腫裏胞周囲のグリオ-シスに存在するRFの辺縁部が、抗GFAP抗体と抗ユビキチン抗体により陽性に染色された。また、上記神経膠腫9症例中数例の標本で、星細胞腫細胞内にgranulated body(Gb)を認めた。(GbはRFと同様に星細胞腫細胞内に認められた変性構造物と考えられている。)PTAHでGbは濃紺に染色され、Gb全体がGFAP陽性を示した。抗ユビキチン抗体による染色では、Gb全体が顆粒状の強い陽性像を示すことが観察された。
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