研究概要 |
悪性度の低いグリオ-マの生物学的特性を明らかにするため,pilocytic astrocytomaに60〜90%の頻度で出現するRosenthal fiber(RF)をとりあげた。昨年度は,9症例21検体の神経膠腫標本の病理組織学的検討から,RFはエオジン好性、PTAHおよび鉄ヘマトキシリン陽性、PAS陰性であった。抗GFAP抗体でRF辺縁部が強陽性,抗ユビキチン抗体で辺縁部が陽性に染色されるが、RF中心部はいずれも陰性であることを報告した。上記数症例の検体では、星細胞腫細胞内にgranular body(Gb)を認めた。GbはRFと同様星細胞腫細胞内に認められ変性構造物と考えられている。病理染色では、GbはPTAHで濃紺に染色され、Gb合体がGFAP陽性、ユビキチン陽性を示した。また、小脳血管芽腫剖検例で、血管芽腫震胞周辺のグリオ-シスにRFを認めその辺縁部のみがGFAP、ユビキチンともに陽性であった。ついで、RFの構成成分の分析に着手した。T.Iwakiらが、Alexander病脳に出現するRFを精製しRF本体の構成成分としてαβクリスタリンを同定した。そこで,我々は市販のαクリスタリンをαA,αBに分離し家兎に免疫してαβクリスタリンに対する抗体作成を試みたが、特異的なものが得られなかった。最近、加藤らが、αβクリスタリンのC末ペプチドで免疫しαβクリスタリンに特異的な抗体を得たと報告した。現在、αβクリスタリン抗体の作成を続けており、グリア・グリオ-マ細胞においてαβクリスタリンが果たす役割を検討して行きたいと考えている。また、c.Abrahamらが、Alzheimer病脳に出現するアミロイドの構成成分としてα_1アンチキモトリプシンを同定し、そのmRNAが灰白質の星細胞に発現していることを報告した。上記9症例で、α_1アンチキモトリプシン抗体による免疫組織化学的検討を行ったところ4例に陽性所見が得られたが、神経膠腫に特異的な所見は得られなかった。
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