転移が非確率的過程とみなし得るのは明らかであるが、転移を決定する要因としては微細環境における細胞分裂の速度であることは自明である。そこで臓器特異的転移を制御するためには宿主の腫瘍細胞分裂に対するコントロ-ル機構の解析が必須である。悪性腫瘍の増殖は腫瘍細胞自体に内在する自律能の一発現型であることを示した。とすれば宿主側からの分裂コントロ-ル因子がたとえ存在したとしても腫瘍細胞はこれらのコントロ-ル因子に反応しないと考えるのが正しい。ある意味ではこれらのコントロ-ル因子に反応しない細胞が悪性腫瘍と呼ばれるべき存在であることを示した。更に宿主と腫瘍細胞との間に多細胞生物としての一般的関係を求めることができると考えた。すなわち多細胞生物をひとつの細胞集団あるいは細胞社会とみなすならば悪性腫瘍の引き起こす現象を統一的に理解することができる。 一方ヒトにおける臓器特異的転移の検出と、この転移を生物学的にどのように考えるかという点についても考察した。すなわち腫瘍マ-カ-と予後との関係を求めることが可能かどうかについて理論的に考察し、腫瘍マ-カ-と予後を決定する因子との間に連鎖不平衡が存在しにくい事から、予後因子として用いるべきではないことを示した。この考察は日常的に臨床の場で使われている腫瘍マ-カ-の意義を損なうものではなく、マ-カ-の生物学的意味を正しく利用すべきであると主張するものである。実際に骨転移を腫瘍マ-カ-を用いて検出する方法を示した。
|