リウマチ滑膜で作られる物質を研究するため、まずリウマチ滑膜からmRNAを分離精製した。これが充分実験に耐えうるかどうかを検証するため、λgt10を用いて通常のcDNAライブラリィを構築した。その結果、一応のデ-タを得たのでこれを報告した(12回分子生物学会:平成元年11月:仙台市/日本整形外科学会雑誌:投稿中)。 本研究はそれをうけ、同一mRNAを用いて今度はλgt11を用いて発現cDNAライブラリィを構築した。サイトカイン類に対しリウマチ患者は特異な抗体を持つであろうという想定のもと、mRNA供給者とは別のリウマチ患者より血清を採取し、これで発現cDNAライブラリィの免疫スクリ-ニングを実施した。その結果、約10万のプラ-クのなかから一個の陽性クロ-ンを分離し得た。このクロ-ンを精製し、挿入されているDNAの塩基配列を決定したところ、108塩基であることが判明した。これを基にコンピュ-タ-で類似の塩基配列を求めたところ、なんとリボソ-ム遺伝子の前後に存在するnon-transcribed spacer(非転写スペ-サ-)と96/108(88.9%)の一致をみた。この部分は非転写塩基部分であって、進化分化によって選択圧が強いはずであること、比較した原報告の配列が多分イタリア人のものであること、などから、この一致はほぼ完全一致とみなしてよいと考えた。 リウマチの研究のはずが、突然分子生物学の基本の問題に変換されてしまったが、その名称のとおり非転写塩基配列と記述されている部分が、リウマチなど特殊な場合には転写をうけ、さらに抗体を誘導しうるまでに蛋白質に翻訳されるということが事実であれば、これは教科書の記述を訂正すべき重大な発見であると考える。本年度の研究はここまでであり、さらに慎重な検討を重ねてしかるべき論文として報告する予定である。なお、一応本年の第34回リウマチ学会(平成2年5月:大阪市)ではここまでを報告すべく、抄録の提出を終了している。
|