人工膝関節置換術における後十字靭帯温存の意義については議論の集中するところである。その点を解明するために、人工膝関節置換術の際に温存した後十字靭帯の状態を実験的、実際の患者について検討する。 1.人工膝関節で置換した膝の後十字靭帯の伸びの変化をIn vitroで測定する。:後十字靭帯温存型の人工膝関節を屍体5膝(平成1、2年度)に挿入した。人工膝関節挿入前に計測した後十字靭帯の長さの変化は、膝屈曲角を大きくするにつれ増大した。人工膝関節挿入後の後十字靭帯の長さの変化も同様な傾向を示し、その変化は腔骨コンポ-ネントの設置位置を前方に設置するほど大きな変化を示した。 2.手術(人工膝関節置換術)時に、後十字靭帯の起始部と付着部に金属性コ-カ-をつけて、人工膝関節挿入前後における後十字靭帯の変化を観察する。:施行例は14膝であった。人工膝関節挿入前に計測した後十字靭帯の長さは、膝屈曲角度が90度の際に一番長くなっていた。60度、30度、伸展位と膝を伸展するにつれて、後十字靭帯の長さは減少した。後十字靭帯温存型の人工膝関節置換術後も、後十字靭帯の長さの変化は同様の傾向を示し、膝関節を屈曲すると後十字靭帯の長さは大きくなった。 以上より、今年度までの結果では、膝関節の屈曲角度が大きくなる程後十字靭帯は長くなり、後十字靭帯にストレスが加わることがわかった。同様のことが人工膝関節置換膝についてもいえる。すなわち、人工膝関節置換術の際に後十字靭帯を温存した方が、膝屈曲角の獲得、人工関節コンポ-トネント・骨面にかかるストレスを減少する点で有利の様である。今後更に症例をふやし、手術施行例ではその術後評価を行なっていきたい。
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