プロタミン靜注後の肺高血圧発生の機序を解明する目的で、山羊、家兎を用い、プロタミン投与後の肺血管反応について調べた。山羊でプロタミン(2mg/kg)投与すると、有意に肺動脈圧は上昇したが、家兎ではこの反応は見られなかった。また開心術症例では、ほぼ同量のプロタミンを投与しているが、人においても家兎同様に肺動脈圧の上昇は見られなかった。ヘパリン・プロタミンcomplexがこの反応に関与しているかどうか調べるために、ヘパリン・プロタミンcomplexとnoncomplexとにセファデックスを用いて分離した。山羊にcomplexを投与すると肺動脈圧は上昇したが、noncomplexの投与では肺動脈の上昇は見られなかった。またcomplex投与後にトロンボキサンB_2濃度は高値を示した。家兎にcomplex投与しても、肺動脈圧の上昇は見られなかった。山羊を生後3ケ月以内と以上にわけ、比較した。生後3ケ月以内の山羊ではcomplex及びプロタミン投与後の肺動脈反応は3ケ月以上の山羊と比べ弱かった。肺血管内マクロファ-ジ(PIM)は種々の異物(赤血球、エンドトキシンなど)を〓食する作用を有している。このPIMは山羊の肺血管内に多く存在するが、家兎、人では少ないと言われている。本研究ではプロタミン投与後の肺血管内反応は山羊で見られたが、家兎、人では見られなかった。以上の事から、プロタミン投与後の肺高血圧発生には、PIMが強く関与していることが示唆された。すなわち、プロタミン投与後、ヘパリン・プロタミンcomplexをPIMが〓食し、PIMからトロンボキサンが放出され、その結果、肺高血圧が生じたものと推測される。本研究では、子山羊を用いるため、研究期間に制限があるため、十分なデ-タが得られていない。今後、同様の実験を継続していく予定である。またPIMとcomplexとの関係についても検討していく予定である。
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