研究概要 |
本年度の研究の目的:重症感染症は多臓器不全(MOF)の主要な原因となっており、当科で過去5年間に経験したMOF症例104例中73例70%を占めていた。感染症の重症化の一因として自己防禦機能の低下が示唆されている。本年度は、自己防御機能のうちでも最前線に位置する比特異的防御機構の中心をなす補体系の機能につき検討した。また、MOF患者の重症度を適確に判定可能な重症度評価法の確立を目指した。 対象:ICU入室の重症感染症症例(sepsis)10例、および重症感染症が原因でMOFとなった症例(septic MOF)5例。方法:(1)重症度評価法:動脈血中ケトン体比、乳酸値、osmolality gapより算出したcellular injury score(CIS)を新たに開発し、この方法によりMOF患者の重症度を判定した。(2)補体系機能の測定C3,C4,CH50,APH50結果:(1)CISは、不全臓器数とよく相関し、不全臓器数が増加する程高値を示した。またCISが増加するほど死亡率は高くなった。CISは多臓器不全患者の重症度を適確に反映する良い指標と考えられた。(2)重症感染症患者(15例)の補体系の測定値は、C3 58.4±21.2mg/dl(50〜120),C4 19.4±8.6mg/dl(15〜50),CH50 32.3±8.6U/ml(30〜46),APH50(alternative pathway CH50)36.1±15.6U/ml(66〜80)であり、全項目正常値に比し低値であった。APH50以外は正常範囲内の変化であったが、APH50は有意に低値であった。(P<0.01)sepsis群とseptic MOF群との間にはCISでは有意差を認めたが、補体系の測定値には各々の項目において有意差を認めなかった。感染症の重症化の一因として、特異的抗原抗体反応を必要としないalternative Pathwayの重要性を示唆する結果が得られたことは、我々の仮説とも合致し、極めて興味深い。
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