研究概要 |
比較的短時間の一過性脳虚血後再潅流時に脳血流量が虚血前値よりも増加することが知られている。この虚血後脳充血は、脳・頚部血管外科手術の麻酔管理において臨床上よく遭遇する病態であるが、その病態生理学的意義が明らかでないため直接治療の対象とはならなかった。そこで本研究においては、虚血後脳充血が脳循環、神経機能等に及ぼす影響と再潅流時の血圧制御の効果について検討した。〈方法〉調節呼吸下の麻酔成猫で顕微鏡手術下に経眼窩的中大脳動脈剥離を行い、急性実験では局所脳血流量(γCBF、水素クリアランス法)、細胞外カリウムイオン濃度(Kec、差動型エレクロメ-タ)、脳波モニタしつつ3時間閉塞、その後再潅流2時間まで観察した後、エバンスブル-静注にてその漏出係数を求めた。慢性実験では、3時間閉塞、その後再潅流48時間の神経障害スコア-を求めた。再潅流後の循環管理に応じて動物を3群に分けて比較した;血圧変動を自然経過にまかせる(急性A慢性A'群)、ハロセン吸入によって血圧制御(B、B群)、ペントバルビタ-ルによる血圧制御(C、C'群)。〈結果と考察〉A、A'群に比し、B、B'、CC'群では再潅流時平均動脈圧が有意に低く、その平均値の差は20〜35nonHgであった。しかし、この血圧較差は必ずしも再潅流時のrCBF値の差をもたらさずγCBF値に群間差はみられなかった。エバンスブル-漏出係数はA、B、C群でそれぞれ平均232,93,26でA、C群間に有意差をみとめた。48時間後神経障害スコア-はA'、B'、C'群の順に重篤でA'とB'、A'とC'群間に有意差をみとめた。これらの結果から、一過性脳虚血に引き続く再潅流時に人為的な血圧制御を行うことで血液脳関門を介する血〓漏出すなわち血管原性脳浮腫の進行が抑制でき神経学的障害を軽減できることがわかった。再潅流時の脳充血はこの血圧制御で必ずしも抑制されておらず、麻酔薬以外の降圧薬や過換気等の試みは今後の課題である。
|