蓚酸カルシウム結石は、全尿路結石の2/3以上を占めるが、その病態はなお不明な点が多い。近年、蓚酸の腸管上皮からの吸収異常、あるいは腎尿細管の輸送異常がその病態に深く関わっていることが明らかにされてきているが、それらを確かめる実験系は複雑である。そこで、腸上皮、腎尿細管上皮の刷子縁膜の替わりに、広く利用可能な赤血球膜を用いて赤血球膜における蓚酸の輸送機能機構を検討した。 Baggioらの方法では、赤血球膜内の諸物質に干渉を受ける可能性があるために、赤血球ghost cell作成を試みた。リン酸緩衝液下に洗浄後、50m0sm低張液中にて高速遠沈した後、pH7.4、摂氏30度にてre-ceilingさせghost cellを作り、ghost化した赤血球膜において、蓚酸をはじめとする陰イオンの輸送(flux rate)につき、種々の条件下に検討した。まず、赤血球内外に陰イオン勾配(赤血球内C1イオン濃度>外C1イオン濃度)下における蓚酸の取り込みを測定した。反応の終了はmillipore急速濾過法および遠心沈澱法にて行った。本法にてghost化した赤血球への蓚酸の取り込みの測定は可能であるが、この実験手技では種々の修飾が加わり複雑な操作を要するために、臨床応用は困難と考えられた。 次にBaggioらの原法に準じてflux rateを測定してみた。本実験の問題点は、反応速度が急速なため、0℃で実験を行う必要があり、目的とする蓚酸輸送担体の機能が測定されていない可能性があること、採血から測定までの種々の環境、異なった条件で保存された赤血球を用いた実験では再現性のあるデータが得られないことが明らかとなった。今回の一連の研究では、当初の予想に反して期待された結果が得られなかった。しかし、ヒト赤血球膜を用いて蓚酸など諸物質の輸送機能を知ろうとする試みは、生理的条件の保持や測定の簡便化等、解決されるべき問題も多いが、生体膜輸送機構解明をする上でなお検討されてよい方法である。
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