研究概要 |
1.コックパウチまたはインディアナパウチに蓄尿を行っている13例および回腸導管の8例について溶質量を一定に制限した食事のもとに脱水時・利尿時における水・電解質代謝を比較検討した結果,パウチ内蓄尿を行う方が脱水時において明らかに尿量が多く,尿浸透圧も低いことが判明した。これは腎より分泌された高張尿がパウチ内に貯蓄する間に,パウチ壁の腸粘膜を介して水がパウチ内に移動することを示している。また,パウチ内蓄尿,回腸導管のいずれにおいても,利尿時の尿中溶質排泄量は脱水時のそれよりも約20%多いことが明らかになった。上記の結果は,パウチに由来する脱水状態が起りうること,およびその予防と腎機能の維持に,水分摂取が大切であることを示している。 2.インディアナパウチ形成術後に合併した急性腎不全の原因を追求し,パウチ容量およびコンプライアンス不足によるパウチ内圧の上昇が尿管通過障害を招くことを明らかにした。すなわちパウチ形成術では,尿管腸吻合部に狭窄や逆流がないことだけでは十分ではなく,パウチの容量と内圧とが腎に大きな影響を及ぼすことを知った。 3.九州における1989年の尿路変向症例について実態調査を行い腸管内蓄尿を行う30症例を集計,分析した。その結果,イレウスなどの手術合併症が36.7%に,尿失禁・導尿困難などのパウチの機能に関する合併症が50%に,腎・尿管の合併症を36.7%に認め,何らかの合併症を伴う症例は80%にも及ぶことが明らかになった。 4.雑種成犬を用いる実験的研究では,回腸の一部を空置し腹壁に開口させて反覆蓄尿に耐えるモデルの作成を試みており,安定した蓄尿量と貯留時間を得るための手技を検討中である。また,人工尿中の腸管粘膜を通過しうる電解質と非通過性分子について,濃度変化を観察中である。
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