研究概要 |
本研究により以下の研究成果を得た。 1.妊娠中毒症における凝固線溶動態の異常を明らかにするため、その動態をより鋭敏に反映する種々のパラメ-タ-(neo antigen)を用いて検討した。これらのパラメ-タ-の推移より正常妊娠時は凝固亢進・低線溶、産褥期は線溶亢進状態にある事がわかった。これに対し妊娠中毒症ではTAT,APCーα_1 AT comlex,DーDimer,PICなどの増加と共にATIIIの軽度低下を認めるなど、正常妊娠時よりさらに凝固亢進状態にある事がわかったが、PAIー2及びuPAの低下がみられ胎盤における機能低下、低線溶が示唆された。著明な凝固亢進の結果線溶も著明に亢進する急性DICの凝固線溶動態と異なり、本病態が慢性DICである事が明らかとなった。 2.妊娠中毒症の臨床症状とこれらのパラメ-タ-との関連性について正準相関分析を用いて検討した結果、凝固線溶系因子で表されるCoagulation Indexと臨床症状で表されるClinical Indexとの間には高い相関が得られる事がわかった。特に因子を限定すると、Coagulation IndexではATIII,PIC,DーDimerが、Clinical Indexでは収縮期血圧、蛋白尿、浮腫が因子として最も有用であった。即ち、妊娠中毒症の臨床症状と凝固線溶系異常の間には相関がみられ、少なくとも凝血学的異常は妊娠中毒症病態を悪化させていることが明確になった。 3.以上より、妊娠中毒症病態の改善には凝血学的異常の改善が重要である事がわかり、抗凝固線溶療法として今回はATIII療法の有効性について検討した。対象を重症妊娠中毒症の純粋型に限定して検討した結果、ATIII投与例の多くは各indexが改善するとともに胎児発育も良好に改善し、本治療の有効性が示された。今後は急性DICに極めて有用と考えられるAPC投与による血管内皮細胞異常の改善や血栓溶解療法を中心に検討していきたい。
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