研究概要 |
(1)子宮内膜症患者の末梢血リンパ球サブセットおよび各種自己抗体(抗核抗体、抗マイクロゾ-ム抗体、抗甲状線抗体、抗ENA抗体、ル-プスアンチコアグラント)、免疫グロブリン、補体などについて測定した。子宮内膜症群および対照正常婦人群共に、少数例で自己抗体の出現や免疫グロブリンの異常、リンパ球サブセットの偏位などが認められたが、両群の間に有為な差はなかった。(2)これら両群の血清にさらに正常男性血清を対照として加えて、子宮内膜細胞を標的とした細胞ELISA法を開発して検討した。子宮内膜細胞は子宮筋腫などの内膜に異常のない疾患で治療のために摘出された子宮内膜組織から、酵素処理、比重遠心などを組み合わせて採取し、均一に浮遊させた間質細胞を96穴マイクロプレ-トで培養して付着させた。このプレ-ト上で各被検血清をあらかじめ予備実験で得られた至適濃度(32ー64倍希釈)で添加し、1時間反応させた後十分に洗浄してビオチン化したヒツジ抗免疫グロブリンを加えた。発色はOPDで行い492mmにおける吸光度を被検血清の抗子宮内膜細胞表面抗原に対する抗体価として評価した。この新しい抗体検査法によって得られた男性群の平均値+2SDを正常上限として判定すると、子宮内膜症群では37.5%(6/16)が抗体陽性となり、一方正常婦人では12.5%(1/8)が陽性となった。この抗子宮内膜抗体と上記の各免疫パラメ-タ-の関連を詳細に検討してみると、抗子宮内膜抗体陽性の7例中3例は抗核抗体もしくは抗マイクロゾ-ム抗体が陽性あるいは偽陽性であった。また逆に、自己抗体が認められた5例中3例には抗子宮内膜抗体が存在していた。しかしながら、リンパ球サブセット、免疫グロブリン,補体などでは、抗子宮内膜抗体との関連は認められなかった。(3)さらに患者血清と対照婦人、男性の血清を非働化して、第3者のリンパ球をこの血清中に18ー24時間浮遊させ、K562細胞を標的としたNK(ナチュラルキラ-)活性を比較してみた。その結果、子宮内膜症患者の血清で処理した場合、他の2群に比べて有意にNK活性が低下しており、患者血清にはNK抑制作用することが明らかとなった。 これらの結果より、子宮内膜症では末梢血のレベルでの著明な免疫系の異常は伴わないこと、しかし内膜細胞に対する抗体の誘導されている例が多いこと、また子宮内膜症では血清中にNK活性抑制物質が出現しているという興味深い事実が明らかとなった。
|