研究概要 |
Ca代謝調節は、分子レベルまで解明されるに到っているが、妊娠中の母体・胎児胎盤系ではなお不明な点が多く、Vit D転換酵素の発現機構も成人と異なった系を構成して、胎児発育を支配している。この酵素には成人型と胎児型の存在が示唆されている。そこで(1)ミトコンドリア分画に存在する活性型Vit D転換酵素(1αOHase),非活性型Vit D転換酵素(24R OHase)に関し、その酵素学的特性を、得た胎盤で経時的に分析し、正常及びIUGR(子宮内胎児発育不良)につき比較するとともに、(2)各々腎臓・胎盤、肝臓にのみ存在すると考えられている 1αOHase、25 OHase酵素活性が、各々周生期胎仔大脳組織及び肺・大脳・腎・胎盤に存在することを発見したが、これらは胎児型と想定され、成人型と比較検討してその特性を分析し、さらに器官培養法によりその活性発現惹起物質を見出す。これから妊娠中毒症・IUGR胎盤等の特性を解析し、Ca代謝の視点より子宮内胎児発育不全の病態生理解明及び治療への臨床応用を目的とするのが本研究の概要である。本年度は以下の結果を得た。1)活性型Vit Dは、腎外性に胎盤で転換産生され、胎児発育を支配する重要な因子として機能している。この酵素活性の経時的な推移や、病的胎盤(妊娠中毒症,IUGR等)での解析は絶無である。24R OHase活性は妊娠20週頃より、また1αOHase活性は遅れて妊娠26週頃より出現し各々漸増するという経時的な推移を見出した。重症IUGR胎盤で1αOHaseは見出せず24R OHaseのみであった。胎盤でのVit D転換酵素は母児Ca代謝に重要な関与をし、病的胎盤ではその遺伝子発現の抑制現象が存在していることを見出し、その機構の解明は子宮内胎児発育異常の解明に通ずるものと思われる。2)Vit D転換酵素はシトクロムPー450酸素添加酵素群であり、胎児型・成人型が想定されている。我々が行った家兎胎仔・新生仔のこれら酵素の各臓器での分岐では、250Hase活性が大脳・肝臓・腎臓・肺臓・胎盤に存在して、肝臓以外では分娩後一過性に軽度上昇して以降低下消失した。1αOHase活性は腎・胎盤・大脳実質にも存在し、大脳では新生仔以降低下消失した。これらは、従来の概念(各々酵素の特定臓器局在性)を打破する新しい発見であり、胎生期と成人では異なった転換酵素群の存在を示唆するものである。
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