研究概要 |
ヒト胎児の発達にともなう心拍数、心調律および心パ-フォマンスの三者の関連を明らかにすることを目的として検討を行った。妊娠18週から41週にわたる正常調律を示す胎児114例を無作為に抽出し、4群の妊娠週数に分けて解析した(I群:妊娠18〜25週、22例、II群:妊娠26〜30週、28例、III群:妊娠31〜35週、30例、IV群:妊娠36〜41週、24例)。一方、これらの正常胎児を参照して、AVブロック6例(I群:4例、II群:6例、III群:6例、IV群:6例)および上室性期外収縮(SVT:Supraventricular tachycardia)4例(I群:4例、II群:4例、III群:4例、IV群:4例)を経時的に観察した。不整脈の診断はDual echographyによって行った。電子スキャン観察下に最大心4腔断面像を求め、この断面で得られたMモ-ド記録のなかから左右心室におけるEnd-diastolic dimension(EDD),End-systolic dimension,Fractional shortening(FS)および個々の心調律に対応する心拍数を計測した。その結果、正常心調律を示す胎児では妊娠の進行に沿って両心室のEDDは増加するにも拘らず、FSはほぼ一定の留まることが分かった。また、妊娠週数とは関係なく、心拍数とFSとは無相関であることも明らかとなった。このことはFSが慢性の心調律異常を伴う症例における心拍数の心パ-フォマンスに対する影響を評価する指標として有用であることを意味する。AVブロックの症例においては対象とした全ての観察期間でEDDもFSも共に正常胎児に比して有意に大きい(p<0.05)ことが分かった。これは長期間子宮内で徐脈に曝されれば、ヒト胎児は一回心拍出量を増加させることによって適応してゆく機能をすでに妊娠18〜25週には獲得していることを示す。また、SVTの症例では妊娠26〜30週以降、正常胎児に比べてEDDは大きく(p<0.05)、FSは小さい(p<0.05)ことが分かった。これはTachycardia-induced cardiomyopathyが子宮内でも実在することを意味する。
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