研究概要 |
浮腫、高血圧および蛋白尿を三主徴とする妊娠中毒症は、妊婦死亡原因の主因であり、周産期死亡の誘因となるため産科領域にとって極めて重要な疾患である。現在まで、多くの研究者によって本疾患の病因が研究されてきたが、"学説の疾患"と呼称されるごとく、未だ、本疾患の原因は不明で、症候群とも考えられる。このような疾患に対して我々は予防医学の観点にたって病態の解明を試みた。 妊娠中毒症の本態は高血圧症(妊娠高血圧症:Pregnancy Induced Hypertension,PIH)であり、PIHを発症する妊婦は、高血圧が顕性化する以前、既にangiotensin II(以下、AーIIと略す)に対する昇圧反応性が、正常妊婦にくらべ有意に亢進することを見いだした。この機序を解明するため本研究を立案し、昨年度、トロンボキサン合成酵素阻害剤(OKYー046)を妊娠高血圧症モデル家兎に投与して連続的にASTを施行した。この結果、妊娠高血圧症妊婦に生じるAーIIに対する昇圧反応性の亢進にトロンボキサンが深く関与していることが判明した(現在、投稿中)。 経口カルシウム剤もAーIIに対する昇圧反応性の亢進を低下させ、PIHの発症を臨床的に有意に減少することを、既に、我々は報告している。交付された補助金の一部を用い、AーIIに対する昇圧反応性を低下させるカルシウムの作用機序の基礎的検討を行なった(現在、投稿中)。本年度は、カルシウム調節ホルモンである副甲状腺ホルモン(PTH)に着目しAーIIに対する昇圧反応性におよぼすPTHの作用を平滑筋培養細胞を用いて検討する。また、血小板活性化因子分解酵素(PAFーAH)活性測定法の確立と臨床研究に同意の得られた、正常妊婦およびPIH発症危険因子を保有する妊婦(高年初産婦、本態性高血圧合併妊娠、肥満妊婦等)を対象として、本酵素活性を測定する。現在、研究は順調に進行しており、当初の計画との大幅な変更点はないことを、付記し報告致します。
|