胎盤性sulfatase欠損症(PSD)は胎盤ステロイド産生酵素が欠如する極めて稀な代謝異常である。妊娠中、低estrogen排泄により本PSDを疑ったcaseの胎盤酵素活性測定により本症の確定診断に至る。我々は本科学研究開始当時49例のPSDを経験していたがこの3年間に胎盤sulfatase測定により16例追加し合計65例となった。日本全土に広がるこれら症例に関し主にアンケ-ト方式で分娩様式及び産科的異常の有無、出生児の魚鱗癬発生状況、家族歴等を収集し統計結果を報告書にまとめた。本症例では出生児は全て男児でほとんどに魚鱗癬の発現を認めた。又、陣痛発来不全の頻度が高く帝切率は47.7%、特に初産例でのそれは62.5%の高頻度を示した。本PSD症例では胎盤のみならず白血球中のsulfatase活性にも異常が認められ新たに確信できた症例の母児を中心に本活性を測定した。PSD出生児では白血球中sulfatase活性は感度以下の低値を示し、これは皮膚疾患の劣性遺伝性魚鱗癬患者と同様であった。一方、このPSD母親の活性は正常女子1/2以下の低値を示し、本症キャリア-の診断に本法が有効であることが判明しこれらの結果を論文で報告した。又、これら母児での血清リポ蛋白電気泳動ではPSD児及び劣性遺伝性魚鱗癬患者ではβーバンドの移動度が大きくRf値が正常者と異なった。更に胎盤酵素のsteroid sulfataseをTritonーX100で可溶化し2種のカラムにより分離・精製した。正常胎盤をPBE94及びphenylsepharoseClー4Bカラムで分離した分画から酵素活性は170倍に高まりSDS電気泳動上、単一な蛋白分画が得られた。本分画のDHAーSに対するkm=7.8μMでありHPLCで分析したMW=500ー600kDaでありこの結果を論文にまとめた(印刷中)。現在この純化成分を日本家兎に注射し抗体作成中である。PSD胎盤も同様の可溶化・カラムを施行したが活性は認められず本抗体を用いてPSDキャリヤ-の診断が近い将来可能であり更に検討して行きたい。
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