トロンボモジュリンの遣伝子解析とその産科領域における応用

1990 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 01570941
• 研究機関: 東京女子医科大学
• 研究代表者: 中林 正雄 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (70114585)
• 研究分担者: 雨宮 照子 東京女子医科大学, 医学部, 助手 (00211011)
• キーワード: トロンボモジュリン / 重症妊娠中毒症 / 糖尿病 / 遣伝子多型性 / recombinant TM / PCR法 / ドットハイブリダイゼ-ション / 血管病変

研究概要

〔目的〕血管内皮細胞膜表面及び胎盤絨毛細胞に多量に存在し、凝固抑制の要であるトロンボモジュリン(TM)はその分子構造に多型性のあることが示唆されている。本研究ではDNAの酵素的増幅法を用い、正常妊婦、重症妊娠中毒症(中毒症)、糖尿病合併妊婦(DM)においてTM遣伝子を解析し、その臨床応用をみた。〔方法〕対象は正常妊婦20例、中毒症10例、DM13例である。1)TMのrecombinationは白血球より染色体DNAを調整し、TM発現用プラスミドCOSー1細胞に導入して行った。TMの塩基配列はジデオキシ法、TM活性はプロテインCーMCA基質法で測定した。2)TM遣伝子の多型性をコ-ドする領域をDNAポリメラ-ゼ1を用いて酵素的に増幅し、このDNAを ^<32>P標識合成ヌクレオチド19Valine、19Alanineとハイブリッド形成を行わせ、検体の遣伝子型を判定した。〔成績〕1)塩基配列の解析より、TMにはN末端より455番目(EGF様ドメイン上)がAlanine(GCC)であるA型とValine(GTC)であるV型が存在し、両型のrecombinant TMはin vitroの活性測定法では差がなかった。2)酵素的増幅法によりTM遣伝子は1万倍以上に増幅され、遣伝子型解析が可能となった。その解析によりTMには3種の遣伝子V/V、V/A、A/Aが存在し、正常では各々113、6例、中毒症では2,4,4例,DMでは3、5、5例の分布を示し、中毒症、DMでV/V型が多く出現する傾向が認められた。〔結論〕TM遣伝子には一塩基置換によるA型とV型が存在し、酵素的増幅法により遣伝子解析の臨床的応用が可能となり、その遣伝子型分布は血管病変が関与する疾患では正常と異なる可能性が示唆された。

研究成果

• [文献書誌] 中林 正雄: "凝固線溶系からみた妊娠中毒症の発症病態" 日産婦雑誌. 40. 1000-1009 (1988)
• [文献書誌] M.Muraoka M.Nakabayashi: "Evaluation of toxemia of pregnancy by venous occlusion test" Current Prospects. 147-150 (1988)
• [文献書誌] 中林 正雄,矢谷 達樹,村岡 光恵,雨宮 照子,武田 佳彦,坂元 正一: "凝固線溶系からみた妊娠中毒症の病態と治療" 産婦人科治療. 58. 348-352 (1989)
• [文献書誌] M.Nakabayashi Y.Takeda S.Sakamoto: "Pregnancy induced hypertension" Perinatology. 267-272 (1988)
• [文献書誌] 中林 正雄: "合併症妊娠の取り扱いー腎疾患と妊娠ー" 日産婦雑誌. 42. 47-50 (1990)
• [文献書誌] 中林 正雄: "血液凝固線溶系からみた妊娠中毒症の予後判定" 産科と婦人科. 57. 690-695 (1990)
• [文献書誌] 中林 正雄,村岡 光恵,東舘 紀子,武田 佳彦,坂元 正一: "妊娠時の血圧調節機構と病態生理(友田豊,佐藤和雄編)" メディカルトリビュ-ン, 182 (1989)
• [文献書誌] M.Nakabayashi,K.TaKagi,T.Mimuro,S.Mushiaki,Y.Takeda,S.Sakamoto: "The Management of Immunologic Thrombocytopenic Purpura(ITP)During Pregnancy S.Suzuki,W.E.Hathaway J.Bonnar,A.H.Sutor(Eds.)" SpringerーVerlag, 289 (1991)