血管内皮細胞膜表面に存在し、トロンビンのリセプターとして凝固抑制の要であるトロンボモジュリン(TM)はその分子構造に多型性のあることが示唆されており、また胎盤の絨毛細胞に多量にあることが知られている。そこで本研究でははじめに遺伝的な血管病変が示唆される早期発症型重症妊娠中毒症および非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)妊婦について胎盤よりTMを分離精製し、その塩基配列の解析を試み、遺伝子多型性の有無とその多型性による酵素学的機能異常を検討した。ついでこれらの患者白血球の染色体DNAよりTM遺伝子の多型性をコードする領域を酵素的増幅法を用いて各疾患毎のTMの遺伝子多型性を検討し、血管病変との関連を解析した。 その結果、TMにはその455番目の塩基配列がValineのもの(Val型)と、Alanineのもの(Ala型)が存在することが明らかとなった。各々のTMをCos I cellを用いたrecombinant法により精製し、その比活性をprotein C-MCA基質法で検討したところ、両者は同じ比活性をもつことが示された。さらに早期発症型重症妊娠中毒症、NIDDM妊婦と正常妊婦の間にgenotypeに相違は認められなかった。 以上より、TMはその分子構造として2種類存在し、両型とも正常な機能をもつことが示され、かつその分布はほぼ均等であることが示された。また産科領域で遺伝的な血管病変で示唆される早期発症型妊娠中毒症やNIDDM妊婦における凝固異常はTMの機能異常や遺伝子多型性によるものではないことが示された。
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