精子に対する抗体が不妊症を惹起する事が従来より知られているので、当研究では精子上のどのような抗原が不妊症に関与する抗体により認識されているのかを検討した。以前よりヒトの胎盤絨毛細胞と精子には共通の抗原が存在するのではないかと考えられていたので、ヒト絨毛癌をマウスに免疫しヒト精子交差する抗原に対する抗体が出来るかどうかを検討した。その結果2H12と名付けたモノクロ-ナル抗体がヒト胎盤絨毛細胞とに反応し精子不動化活性を呈した。この抗体が精子に反応する様式は不妊婦人患者に見られる精子不動化抗体の精子に対する反応様式と非常によく似ていたので、この抗体が認識する精子上の抗原が不妊婦人が持つ精子不動化抗体と同じ抗原を認識しているのではないかと考えた。そこでこのモノクロ-ナル抗体2H12が認識する抗原を調べたところ、その抗原は糖鎖抗原に属し、硫酸ガラクト-ス基(3ーOーGalactose)を認識する抗体である事が解った。そしてそのヒト精子上の抗原物質はseminolipidであることが明かとなった。また患者の精子不動化抗体をこの硫酸ガラクト-ス基を持つ各種の糖鎖で吸収を行うと大部分の患者の精子不動化抗体は吸収され、また患者抗体の精子に対する反応がモノクロ-ナル抗体2H12により競合的に抑制された。これらの事実から不妊婦人患者の精子不動化抗体が硫酸ガラクト-ス基を認識する抗体である事が証明された。実際にヒトが硫酸ガラクト-スを認識する抗体を作り、かつ精子不動化作用を発現するものがあるかどうかをヒト型モノクロ-ナル抗体を新たに作成して検討した結果、硫酸ガラクト-スを認識し且つ弱いながらも精子不動化活性を有するヒト型モノクロ-ナル抗体の作成に成功した。
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