研究概要 |
平成元年度は走査型電子顕微鏡(SEM)を主たる研究手段として2つの成果を得た。 1.SEMによる蝸牛らせん器内部の神経分布観察法の開発。 これまでの電顕レベルでの手法では透過型電顕が主流で,SEMによる観察は限られた少数のものしかなかった。これは乾燥した試料を手でこわすというこれまでの手法が、むずかしい操作で定常的に良い結果を得ることがむづかしかったことによる。我々は蝸牛を脱灰したあとセロイジンに包理し、マイクロト-ムで100〜150μmの厚切り切片を作成。脱セロイジンのあと乾燥してSEMの観察をおこなった。これにより、らせん器内部の神経線維を容易に、確実に観察できるようになった。 2.ネコらせん器での成熟にともなう神経線維分布の変化。 1の手法でさまざまな成熟段階にあるネコ9匹の蝸牛を観察した。(1)体重93gのネコで、蝸牛の上方回転は未熟のため腔の形成がなかったが、下方回転では腔があり、外有毛細胞の側面がみえた。この周囲に神経終末をつくる以前の、遠心神経成長端部と考えられる空起をみた。(2)300gのネコで、トンネルらせん神経束の異所性走行がみられた。これまで報告されている場所とちがい、トンネル底を走るのが、中・頂回転でみられた。(3)遠心神経と考えられるtunnel medial fiberの走行は、これまで言われていた中空を走るものが多いが、途中でトンネル底についたり、再び上昇したり、さまざまな走行を示すものがあった。以上の他にもきわめて細い神経線維がみられたり、発育段階における神経線維の諸相が観察され、現在ひきつづき研究をつづけている。
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