人工内耳は高度灘聴者に対し、音を電気信号に変換し、聴覚および言語理解平を回復せしめようとするものである。これまで欧米ではすでに臨床応用されているが日本語の特殊性もあり、又臨床応用が先行して実際に脳内の活動状況がどうかという基礎的研究はあまり報告されていなかった。我々の研究では、まず初年度に日本語の特殊性について臨床的に検討した。この人工内耳では日本語の母音の弁別は良好であるが、子音の弁別は不十分である事が判明した。人工内耳を装着する患者の蝸牛は機能的には廃絶しており、いわゆる音による進行波は生じない状態である。それにもかかわらず人工内耳装着者は周波数の弁別は可能である。これは聴神経を含め上位中枢に周波数弁別機能が一応揃っている事が予測される。又人工内耳から中枢に送られる情報は比較的単純な情報であるが患者は人工内耳装着後2〜3ケ月で言語理解がかなり可能となる。これは上位中枢の働きが大であると考えられ、聴覚中枢だけでなく連合野と呼ばれる中枢の活動の関与が予測される。次年度では脳内の活動を探る手段としてポジトロンCT(PETと略す)の応用を高度難聴者及び人工内耳装着者に行った。その結果大脳聴覚領野の活動は高度難聴者では、残存聴力が残っていると低下はそれ程著明でなく、聾に近い程低下して行く傾向が認められた。又失聴期間が長い程活動の低下が認められた。一方人工内耳を装着する前後の聴覚領野の活動を調べると、装着前は第一次、二次聴覚領野の活動低下が認められる例でも、装着後、第一次及び聴覚連合野の活動上昇も認められた例があり、人工内耳からの情報を言語として判明しようとする活動が脳内に生じている事が判った。
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