研究概要 |
1.視野水平逆転プリズム装着下の自由歩行により,著しい動揺病が発現した。従来の受動刺激条件ではなく能動歩行のため,自律神経症状に加え平衡失調の起こることが判明した。また同一逆転プリズムを装着していても,歩行環境により動揺病の発症有無,症状の強さが影響された。同時に当揺病感受性に大きな個体差が見られた。 2.視野垂直逆転プリズム装着下においては,水平逆転と全く異なり,動揺病状は全く発現しなかった。従って水平逆転で見られた平衡失調も観察されなかった。視覚と前庭覚のミスマッチの点では両者の組み合わせは等しいので,単に入力間のミスマッチではなく,ミスマッチの結果空間認知が障害されたか否かが,動揺病発現の成因と結論された。 3.水平逆転プリズム装着で明らかにされた平衡失調を客観的に証明するためにGraybielのAtaxia test batteryをプリズム装着前,装着歩行中および歩行終了後に正常対象者で行った。この結果,水平逆転プリズムでは,動揺病発症に一致して有無のスコア低下が見られた。一方,垂直逆転プリズムでは,明らかなスコアの低下は観察されなかった。しかし,動揺病の自律神経症状の強さ(Graybielの分類)と平衡失調の程度は必ずしも相関していなかった。この理由としては,自律神経症状が空間認知異常の警報としての機能を担っており,その強さは認知障害の程度に加え,個体の感受性(鋭敏さ)に依存するためと考えられた。 4.両側迷路機能消失例においては先天性障害と後天性障害いずれの場合も動揺病は起こらなかった。しかし,平衡失調は前者で欠くのに対し,後者では著しく,特に水平逆転では転倒傾向が見られた。この差は身体平衡の為の空間認知における視覚依存度が先天性と後天性で異なることにより説明された。以上の観察結果を元に,平衡制御についての新しい理論(生体内座標軸理論)を発表した。
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