研究概要 |
滲出性中耳炎症例の鼓膜と正常鼓膜の厚さを開理組織学的標本について計測し比較検討した。ヒトにおいて緊張部では2倍以上の厚さを示したが、弛緩部ではこれら病耳の鼓膜は3倍近く肥厚していた。滲出性中耳炎鼓膜では上皮下に腫脹肥厚があり固有層における分化した線維構成そのものが厚みを増すわけではないので、強度にはどのような影響が生じるか関心が持たれた。 膜迷路は鼓膜に比べて遥かに微細で引張試験機で測定するには多くの技術的困難がある。カエル・モルモットにおいては半規管を用ちい、ヒトについては膜迷路の各部位を取出して引張強度の計測を施行した。ヒト膜迷路で新鮮なものに換算した結果は球形嚢膜36.33gf/mm^2,ライスネル膜49.75gf/mm^2,卵形嚢膜90.79gf/mm^2,半規管165.63gf/mm^2であった。これらは引張試験における破断限界である。これらの値を内圧によって膜の破断を来たす圧に換算すると次のようになる。球形嚢膜は64.0mmHg,ライスネル膜106.7ー142.2mmHg,P形嚢膜210.6mmHg,半規管1992.8mmHgとなった。球形嚢膜を理論的に破断させ得るこの値は、ヒトの小動脈圧とされる40ー85mmHgに匹敵する。つまり球形嚢内に小動脈が破れる出血を生じただけで球形嚢膜は破綻する。同じく内リンパ腔の内圧は球形嚢膜を破断させる圧64.0mmHg以上には上昇する可能性はないことが判明した。このような球形嚢破裂の内体は剖検例からの実際の内耳病理組織からも発見することができた。
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