実験動物のモルモットに低酸素状態を繰り返すことで、聴性脳幹反応(ABR)が次等に平坦化し、いわゆる急性感音難聴の状態になってくる。この現象が如何なる機序で惹起するのかが本研究の目的であった。この問題を明らかにするために、呼吸循環器系を管理できるようにモルモットを固定し5%酸素と 95%窒素ガスの混合ガスや室内空気の吸入を繰り返しながら低酸素状態に誘導した。いくつかの時点で心電図、動脈圧、血液ガスを観察しながら ABR波形を記録させた。ABRが平坦化した後は、蝸牛有毛細胞の酸素組織化学的検索を行い、同時に電顕学的検索を行った。 その結果、混合ガス負荷時には徐脈性不整脈が見られ血圧が低下する事、室内空気に切り替えると非常に早い時期に回復する事、PaO_2が増加する事を明らかにした。また、この時点での有毛細胞は好気的酵素活性が散在性に低下し嫌気的酵素活性が増強した。しかしながら有毛細胞の形態的な変化は見られなかった。これに対し血管条を透過電顕で観察した所、基底細胞には大きな変化は見られなかったが中間細胞に浮腫(水腫)が見られた。その影響で中間細胞と辺縁細胞との嵌合に解離状の変化が見られた。この所見は血管条の正常な機能を障害していると容易に推察できた。 以上の研究成績から、動物を低酸素状態にすることで急性感音難聴を惹起する機序は、感覚細胞自体の形態的変化を起こす以前に感覚細胞の代謝をコントロ-ルしている血管条の変性が先行すると言う結論を得た。
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