網膜におけるヒスタミンの存在部位と役割を調べるために次の実験を行った。ラット網膜で抗ヒスタミン抗血清を用いて光学顕微鏡的免疫組織化学法をおこなった。その結果、網膜外網状層の外顆粒層側(視細胞終末)および網膜血管に抗ヒスタミン抗血清に対する強い免疫反応を得た。前記の光学顕微鏡的免疫組織化学の結果をふまえて、さらに電子顕微鏡的免疫組織化学をおこなった。その結果、視細胞の細胞突起および杆体小球部が免疫染色された。杆体小球部では、細胞質およびシナプス前膜に顆粒状の強い免疫反応を得たが、シナプスリボン周囲には免疫反応が認められなかった。網膜血管では、血管内皮細胞接合部位に抗ヒスタミン抗血清に対する免疫反応がみられた。他の網膜を構成する細胞には免疫反応は認められなかった。次に、視細胞のヒスタミン産生能力を検討した。視細胞のヒスタミン産生を検討するために、まず抗ヒスティヂン脱炭酸酵素抗血清を作製した。オクタロ-ニ-法でヒスティヂン脱炭酸酵素抗血清ができていることを確認した後、抗ヒスティヂン脱炭酸酵素抗血清でラット網膜を免疫染色すると、抗ヒスタミン抗血清で免疫染色したのと同様に網膜外網状層の外顆粒層側が染色された。視細胞が抗ヒスティヂン脱炭酸酵素抗血清で免疫染色されることから、ラット視細胞はヒスタミンを産生していることが示唆された。 現在までの実験結果は、ヒスタミンが視細胞終末に存在することを示し、視細胞がヒスタミンを産生することを示唆した。従って、ヒスタミンが視細胞の神経伝達物質あるいは神経調節物質であることを示唆する。またヒスタミンは血管透過性にも関係していると考えられる。今後、ヒスタミンの網膜における役割および疾病時のヒスタミンの挙動を解明していく計画である。
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