本研究の最も独創的な点は、リン脂質を固定するためにタンニン酸(pemta-m-digalloyl-glucose)を用いたことであるが、このタンニン酸は試料作製中のどの過程で用いるかによって、固定、染色又は媒染効果をもたらすことができる。本研究では、グルタ-ルアルデヒドとともにタンニン酸を用い、しかもオスミウム固定の前に用いることにより、これまで試料作製中にそのほとんどが流失していたと思われるリン脂質成分を多層膜構造物(MLB)として可視化させることができた。このMLBはホスファチジルコリンを主成分とするもので、リン脂質-糖-タンパク複合体であることが推察された。このMLBの起源については、細胞内小器官とくにゴルジ複合体や小胞体の膜成分との連続性がみられることから、既存の膜成分と非常に近い構成成分を持つことが推察された。 発育中の頭蓋冠を用いたin vivo検索では、MLBは骨形成細胞の細胞内および細胞表面上に認められた。特に胎生15日目、17日目、19日目そして生後1日目、3日目で観察される細胞表面上のMLBを比較すると、出生前後で最も出現頻度が多いようであった。軟骨細胞に関しても、MLBの出現頻度は同様傾向を呈し、細胞内グリコ-ゲンの消失に伴い、同部位にphosholipid membranous structuresが出現し、上述の多層膜構造物(MLB)として認められることもあった。またMLBはときに細胞外へ放出されようとしている所見も観察された。 この結果は、in vitro検索で得られたものとはほとんど同じであり、副甲状腺ホルモン添加によって細胞膜上のMLBはいくつかのものが重なり、指紋様模様を呈することがあった。以上の結果は、リン脂質が細胞膜成分の構成成分であるだけでなく、細胞外へ放出(分泌)され、何らかの役割りの存在する可能性が示唆された。今後、石灰化との関連について明らかにしていきたい。
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