細胞内の脂肪分解酵素(リパ-ゼ)はグルタ-ルアルデヒド固定で失活しないため、オスミウム後固定の前に所定条件下でのインキュベ-トにより、リパ-ゼ分解産物である長鎖脂肪酸をラメラ構造として観察することができる。また、リン脂質分子は界面下では広いpH範囲で安定したラメラ構造をとるが、脂肪酸ではアルカリ領域で出現するラメラ構造は、酸性領域では油滴状になって安定化するという。これら先人の報告に基づき、骨形成細胞において固定時のpH変化とラメラ構造出現に関する影響を検索した。 その結果、(1)弱アルカリ性緩衝液で固定、さらにpH8.1でインキュベ-トした骨組織片では、骨芽細胞の細胞外や細胞間、また細胞内では主の小胞体膜成分に一致して、好オスミウム性の多層膜構造物(MLB)が多数観察された。一方、固定なしに直ちにインキュベ-トを行なった場合でも、グルタ-ルアルデヒド固定した場合と基本的には同じ所見で、小胞体、ミトコンドリア膜と連続する小管状ラメラ構造として観察された。(2)pH9.0で固定したあと、pHを下げて(pH4.5)インキュベ-トした場合では、細胞外及び細胞内のMLBの出現頻度はやや減少傾向を呈していた。(3)また、pH4.5で固定、さらにpH4.5でインキュベ-トした組織片では、細胞外には好オスミウム性のMLBの出現は減少し、代わって空胞状構造やMLB内には一部ラメラの解離、分解を示すような所見および油滴が観察されるようになった。 以上のことから、グルタ-ルアルデヒド固定組織において、アルカリ領域でのインキュベ-トでラメラ構造が出現し、また酸性領域では油滴などの出現は、発育中の頭蓋冠における骨芽細胞で見られた細胞内外のMLBには、固定中の脂肪滴の分解産物として一部には長鎖脂肪酸が可視されている可能性が形態学的に示唆された。
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