我々は先に、PAF(血少板活性化因子)のラット歯髄組織によるPGI2及びTXA2生合成促進作用を明らかにし、さらにコルヒチン投与によりラット歯髄組織によるPG12及びTXA2生合成が著明に上昇することを報告した。そこで、本研究の目的はこの薬物により誘発される歯髄組織障害の発現機構におけるPAFの役割に焦点を絞り、それを生化学薬理学的手法を用いて解析、検討することであった。結果は以下の通りである。(1)ラット歯髄組織を摘出し、ただちに総脂質を抽出し、薄層クロマトグラフィ-によりPAF分画を得、ウサギ血少板を用いた生物検定法によりわずかではあるがPAF様活性を認めた。この活性は高速液体クロマトグラフィ-により、PAFであると同定した。未処理歯髄から検出されたこのPAFは摘出などの刺激によって生成されたものと考えられる。次にラットにコルヒチンを投与し歯髄組織におけるPAF産生能が上昇するか否かを検討したが、対照と比較して有意な差は認められなかった。(2)歯髄組織の欠陥透過性をエバンスブル-を用いた色素漏出法により測定し、コルヒチン投与により歯髄組織の血管透過性が亢進するかを検討したところ上昇する傾向が認められた。しかし、歯髄血管系の著明な血行障害により、色素が組織全体に分布しないという問題が生じた。(3)コルヒチンの代わりにエンドトキシンをラットに静注し、歯髄組織におけるPGI2とTXA2産生に対する影響を検討したところ、両代謝物産生の著明な上昇が認められた。(4)以上の結果より、コルヒチンはその著明な歯髄血管障害作用より本薬物を用いてのPAFの役割解明は困難であると考えられた。しかし、エンドトキシン静脈内投与が歯髄のPGI2とTXA2産生を著明に促進することが明らかになった事より、今後の課題は、この系を用いることにより歯髄組織障害におけるPG系とPAFの役割を解明することである。
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