アスピリンを代表とするサリチル酸系薬物は沈痛、解熱、抗炎症作用により広く用いられ、また古い歴史を有する薬物である。近年、サリチル酸系薬物がプロスタグランジンの産生を抑制することが発見されて以来、非ステロイド性抗炎症薬の作用機序がプロスタグランジン産生抑制にあることは広く認められている。一方、プロスタグランジンは骨吸収の強力なメディエ-タ-であり、炎症などにともなう骨吸収に関与していることが知られている。そこで、サリチル酸誘導体薬物の骨吸収機構に及ぼす作用を解明する目的で、in vitroで培養マウス頭蓋骨(calvaria)を使用したモデルを用いて実験を行った。ddyマウス生後6 7日令よりcalvariaを取り出して、24時間のprecultureの後、培地(0.1%Albumin含むBGJb)を交換し、プロスタグランジン産生と骨吸収を高める目的で、上皮成長因子(EGF)を50ng/mlの濃度で加えた。実験群のcalvariaには、Na-salicylateあるいはAspirin-DL-lysine塩を0.01ー1.0mMの濃度で加えて、72時間培養を行い、培地中のCaを計測して骨吸収の指標とした。EGFにより昂進する骨吸収を、両薬物は用量依存的に抑制した。その作用は、Aspirinによる抑制の方がやや強い傾向がみられた。また、Caにたいする抑制作用とともに骨基質の吸収の抑制も示すことが、^3H-prolineを用いた実験にて明らかにされた。同時にEGFによるプロスタグランジンE_2ならびに6k-プロスタグランジンF_1αの産生の増加も、両薬物により抑制された。さらに培地中への乳酸ならびにライソゾ-ム系酵素の遊離も抑制された。以上の結果より、EGFによる骨吸収作用に対して両薬物は阻害作用を示し、その作用はプロスタグランジン合成の抑制を介して発現することが示唆された。
|