歯周組織の破壊機構とタンパク分解酵素の役割

1990 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 01571023
• 研究機関: 九州大学
• 研究代表者: 山本 健二 九州大学, 歯学部, 教授 (40091326)
• キーワード: 歯周疾患 / 歯周組織の破壊 / タンパク分解酵素

研究概要

本研究の目的は、歯周疾患の際に見られる歯周組織破壊のプロセスを理解するために、これに関与すると考えられるタンパク分解酵素を、歯周炎患者ならびに実験的歯肉炎被験者の歯肉溝滲出液(GCF)中に同定し定量化することである。前年度の研究から、エラスタ-ゼ様セリンプロテア-ゼであるメダラシンの歯周炎ならびに実験的歯肉炎の臨床症状に伴う動態が明らかにされたことから、本年度はリソゾ-ム性システインプロテア-ゼであるカテプシンB,HおよびLに焦点を絞って研究を行った。以下に本年度に得られた知見を示す。
(1)歯周炎患者から採取したGCF中のカテプシンB,HおよびLの活性量はいずれもGCF量と高い相関を示したが、歯周ポケットの深さとはほとんど相関しなかった。GCF量は歯周炎の病勢と相関していることを考えると、これらの酵素は本疾患の進行に伴って多量に歯肉溝に遊出し、歯周組織の破壊に強く関与していることが示唆された。
(2)各々の酵素の歯周ポケットへの滲出の仕方を知るために、GCF中に含まれるタンパク質あたりの活性値(比活性)を求めてみると、いずれの酵素も明らかにGCF量の変化と負の相関を示した。これは、GCF量が少ない段階、すなわち歯周炎の病勢がまだ弱い段階で、いずれの酵素も濃縮されて歯周ポケット内に遊出していることを示している。
(3)実験的歯肉炎被験者から採取したGCF中には、歯垢清掃停止期間(21日間)のすべてにおいてカテプシンB,HおよびLのいずれの酵素活性も検出されなかった。
(4)ヒト肝臓から精製したカテプシンBに対する特異抗体を用いて、GCF中のカテプシンB量を免疫生化学的に定量した結果、本酵素量は特異基質を用いた活性測定によって得られた結果と同様にGCF量の変化と高い相関を示した。

研究成果

• [文献書誌] Kazushi Kunimatsu: "Cathepsin B,H and L Activities in Gingival Crevicular Fluid from Chronic Adult Periodontitis Patients and Experimental Gingivitis Subjects" J.Periodont.Res.25. 69-73 (1990)
• [文献書誌] Kazushi Kunimatsu: "Granulocyte Medullasin Levels in Gingival Grevicular Fluid from Chronic Adult Patients and Experimental Gingivitis Subjects" J.Periodont.Res.25. 352-357 (1990)
• [文献書誌] 市丸 英二: "歯周組織の破壊機構とリソゾ-ム性プロテア-ゼの役割" 炎症. 10. 451-456 (1990)
• [文献書誌] Takashi Saku: "Cathepsin D and E in Normal,Metaplastic,Dysplastic and Carcinomatous Gastric Tissue.An Immunohistochemical Study" Gut. 31. 1250-1255 (1990)
• [文献書誌] Eiji Ichimaru: "Characterization of HemoglobinーHydrolyzing Acidic Proteinases in Human and Rat Neutrophils" J.Biochem.108. 1009-1015 (1990)
• [文献書誌] Hiroshi Nakanishi: "Enhancment of NMDA ReceptorーModiated Synaptic Potential Evoked in Rat MedialーAmygdala Neuron Following Olfactory Bulbectomy" Brain Res.532. 69-75 (1990)
• [文献書誌] Kenji Yamamoto: "Structure and Function of the Aspartic Proteinases" Plenum Press, (1991)
• [文献書誌] 山本 健二: "歯周治療の科学" 医歯薬出版, 267 (1991)