研究概要 |
サポニン処理ラット耳下腺細胞を用いた研究から、cAMPがアミラ-ゼ分泌の主要な調節因子であることは照明されたが、分泌機構にcAMP依存性蛋白リン酸化酵素(Aキナ-ゼ)が関与している証拠は得られなかった。その根拠は、1)ラット耳下腺細胞中のAキナ-ゼは10^<-6>MのcAMPで完全に活性化されるのに、アミラ-ゼ分泌にはミリモル濃度のcAMPが必要であった(J.Biochem.103,95〜98,1988)。2)Aキナ-ゼ阻害剤の存在下で、蛋白リン酸化は著名に阻害されたが、アミラ-ゼ分泌はほとんど影響を受けなかった(Biochem.J.256,867〜871,1988)。 アミラ-ゼ分泌とAキナ-ゼの関係を明らかにするため、サポニン処理耳下腺細胞に1〜1000μMのcAMPおよびその誘導体を加え、アミラ-ゼ分泌と蛋白リン酸化の程度を対比した所、両者は大変よい相関を示した。この結果は、1)アミラ-ゼ分泌とAキナ-ゼの活性化に要するcAMP濃度は一致すること、2)アミラ-ゼ分泌の強さと蛋白リン酸化の程度はよく対応することを示し、アミラ-ゼ分泌へのAキナ-ゼの関与を強く示唆した。 他方、Aキナ-ゼの調節サブユニットには二ケ所のcAMP結合部位が存在し、各結合部位に選択的に結合するcAMP誘導体(部位選択性アナログ)が知られている。そこで、それぞれの結合部位に親和性の高いアナログを二種類組合せてサポニン処理細胞に加えた所、各アナログ単独の効果の和よりも強い効果(相乗効果)が認められた。以上の結果はAキナ-ゼ関与の可能性をさらに強化したが、Aキナ-ゼ阻害剤の存在下で分泌とリン酸化が対応しない現象は再度確認されたことから、Aキナ-ゼの蛋白リン酸化作用をになう触媒サブユニットとcAMPを結合する調節サブユニットが機能分化し、調節サブユニットにだけアミラ-ゼ分泌促進作用がある可能性が示唆された。
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