研究概要 |
活性型ビタミンD[1α,25(OH)_2D_3]は、細胞の増殖・分化が活発な小腸を主たる標的組織とするCa代謝調節ホルモンであるが、この点に着目して行った作用の研究はない。我々は、1α,25(OH)_2D_3の小腸に対する作用を、細胞の増殖・分化と密接に関与しているポリアミン代謝との関連から検討して以下の点を明らかにした。(1)D欠乏のニワトリヒナに1α,25(OH)_2D_3を投与するとオルニチンからのclassicalな経路とスペルミジンからの内部転換経路の双方からプトレッシン合成を亢進する事を見いだした。(2)オルニチン脱炭酸酵素(ODC)の阻害剤であるαーdifluoromethylornithine(αーDFMO)とポリアミン酸化酵素阻害剤N^1,N^4ーbis(2,3ーbutadieny1)ー1,4ーbutanediamin(MDLー72527)を併用投与してプリトッシンを欠乏させると、小腸絨毛の短縮とCa吸収の低下がもたらされた。また、プトレッシンを経口投与すると絨毛は伸張し、Ca吸収も阻害剤非投与時のレベルまで回復した。(3)D欠乏のニワトリヒナに1α,25(OH)_2D_3を投与すると、小腸のCa吸収は著しく亢進する。この亢進は絨毛上皮細胞膜を微絨毛膜(mucosal membrane)と漿膜(basolateスal membrane)とに分画して検討した所、1α,25(OH)_2D_3投与により促進されるCa吸収は漿膜側に局在するCaーATPaseの活性上昇によって起こっている事が明らかとなった。(4)1α,25(OH)_2D_3投与によるCaーATPase活性上昇の調節機構を調べてみると、分子量105kのCaに依存した蛋白質がATPと特異的に結合する事が明かとなった。本蛋白質は、リン酸化によりその活性が調節されていることから、プトレッシンが105k蛋白質のリン酸化の調節を介して、小腸のCa吸収を調節している可能性が示唆された。(5)1α,25(OH)_2D_3投与による漿膜側のCaーATPaseの活性上昇は小腸の全ての部位で共通して起こった。以上のことから、小腸におけるCa吸収にはプトレッシン合成を介した絨毛の伸長と漿膜側のCaーATPase活性の亢進が関与する事が示された。
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