本年度は、まず外科処置時に採取した歯周炎罹患歯肉および正常歯肉をドライアイスにて凍結し、OCT compoundに包埋した。次に6μmの連続した凍結切片を作成し、1枚にHE染色を行い、細胞浸潤程度により(-)・(+)・(++)の3段階にわけた。残りの切片には間接蛍光抗体法を用いた免疫組織染色を施した。検索に使用した1次抗体はウサギ抗ヒトIV型コラ-ゲン(C IV)、ラミニン(LM)、フィブロネクチン(FN)である。通法に従って1次抗体と反応させた後、FITCで標識したヤギ抗ウサギ全血清と反応させ、蛍光顕微鏡で観察した。得られた結果は以下の如くである。1)臨床的健康歯肉:プロ-ビングによる歯肉溝の深さが1〜2mmの正常な歯肉溝上皮は4〜5層の上皮細胞からなり、上皮脚の発達はなかった。上皮下の結合組織中の細胞浸潤の程度は(-)であった。蛍光抗体法によりLMとC IVは、上皮基底膜中で連続した線状の染色性を示した。FNは、結合織線維の走行に沿って認められ、結合組織深部まで一様に強陽性であった。2)歯肉炎・歯周炎罹患歯肉:ポケット上皮は上皮脚が発達し、一部で増殖や潰瘍もみられた。上皮下の細胞浸潤(-)のものでは、LM・C IV・FNとも健康歯肉のそれと同様に染色された。(+)のものではLM・C IVは特にポケット底部で薄くかつ分断像を呈し、上皮脚基底膜では部分的あるいは全体的に欠如したり、一部では肥厚像もみられた。(++)のものではその程度が増し、特に上皮内への細胞浸潤が激しいところでは欠如していることが多かった。FNは浸潤細胞の分布や量に一致して染色の強さが減弱し、結合織線維の破壊も明瞭であった。以上の結果は、歯周炎罹患歯肉においてC IVやLM、FNの破壊が生じることを示唆するものと考えられた。今後さらに、その程度が辺縁性歯周炎の病態の目安としえるものが追求する方針である。
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