辺縁性歯周炎の発症に先立って歯周組織の微細な破壊が起こり、やがては進行した歯周炎として臨床的にとらえられるようになることは想像に難くない。そして歯周炎の最大の原因がプラ-クないしプラ-ク由来の因子であるという現在の見解からすれば、最初に破壊が生じるのは接合上皮部であり、歯周炎の進行時にはポケット上皮部であろう。そこで本研究では、ポケット上皮の破壊、とくにその細胞外物質の破壊を臨床症状と対比して免疫組織学的に追及した。そして今回は細胞外物質のなかでもとくに、基底膜を構成するタイプIVコラ-ゲン、ラミニン、フィブロネクチンについての検索を行った。材料は歯周外科処置時に採取した歯周炎罹患歯肉と臨床的健康歯肉を用いた。通法にしたがって凍結切片を作製し、ウサギ抗タイプIVコラ-ゲン、抗ラミニン、抗フィブロネクチンを一次抗体、二次抗体にFITC標識ヤギ抗ウサギ免疫グロブリンを用いた蛍光顕微鏡観察を行った。さらに、後述する基底膜の断裂の存在する部位とそうでない部位について、単位面積あたりの浸潤細胞数を測定した。その結果、タイプIVコラ-ゲンおよびラミニンともに臨床的健康歯肉のポケット上皮細胞基底膜に連度して観察され、フィブロネクチンも基底膜から上皮下結合組織に広く観察された。しかし上皮下結合組織への炎症性細胞浸潤が強くなるとフィブロネクチンは消失し、ついで基底膜のタイプIVコラ-ゲンとラミニンの連続性が失われた。この基底膜の断裂のある部位とない部位において、上皮下結合組織ならびに上皮組織内へ浸潤した炎症性細胞数に相違があるか否かを検定してみると、好中球が最も有意差を示しており、とくに上皮内に浸潤した好中球の数にその傾向が強かった。以上の結果は、基底膜の断裂という歯周組織の微細な破壊に、好中球がなんらかの関連を有することを強く示唆していると考えられた。
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