1.口腔粘膜癌の原発腫瘍組織の生検のパラフィン包埋ブロックより作製した組織切片について、抗rasp21抗体を用いてABC法によりp21の発現様式を解析した。その結果、検索した86例においてp21の発現を認めたのは37例(43%)であった。この内、口腔底原発の6例総てにp21の発現がみられたが、歯肉原発の20例でp21の発現を認めたのは6例(30%)であった。更に上顎洞原発症例38例と口腔粘膜癌症例とを比較すると、上顎洞原発の24例(63%)にp21の発現が認められ、有意水準0.05以下で口腔粘膜癌との間に有意差が認められた。2.上記症例中、当教室で治療し所属リンパ節転移が疑われ、頚部郭清術が行なわれた口腔粘膜癌36例について、原発腫瘍組織と転移腫瘍組織でのp21の発現様式を検討した。この内、所属リンパ節に転移が認められたのは12例(32%)であった。原発腫瘍にp21の発現が認められた19例中で転移症例は9例(47%)でこの内6例に転移巣にp21の発現が認められた。原発腫瘍にp21の発現が認められない17例中転移症例は3例であった。以上より原発腫瘍にp21発現症例は、p21発現陰性症例より有意に(P<0.06)転移しやすいことが示された。また原発腫瘍にp21発現陰性で転移腫瘍にP21発現陽性症例が1例認められた。3.P21陽性腫瘍組織よりp21を抽出し、このp21標品についてSDS-PAGEを行なった後、泳動ゲル上の蛋白をニトロセルロ-ス膜に転写し、p21単クロ-ン抗体を用いたイムノブロッティングを行った。このスポットを光電濃度計により測定した結果、NRK-49F細胞を1とすると原発腫瘍組織では0.69〜0.92の範囲にあり、転移腫瘍組織では0.19〜0.65の範囲であり、組織切片でのP21陽性細胞率と近似していた。4.電気泳動により荷電と分子量を検討した結果、検索した3症例においては、有意な差を認めなかったが、ras p21の発現と転移との関連が示された。
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