上皮増殖因子(EGF)は正常細胞の増殖と分化に関与するだけでなく、実験動物に皮下投与した場合、乳癌や皮膚癌の発生を促進することが報告されている。しかし、唾液や尿に多量に含まれるEGFがこれら体液と接する粘膜の発癌過程に関与するか否かは十分検討されておらず、EGFのプロモ-タ-作用についての結論も出ていない。本研究の目標は唾液EGFのプロモ-タ-作用の検証であるが、口腔発癌でのプロモ-ション作用を検定する条件は確立しておらず、また唾液自身に口腔癌に対するプロモ-ション作用があるか否かも不明である。この点で、唾液と同様にEGFを含む尿に関しては、尿中の膀胱発癌促進物質の存在がすでに明らかにされている。そこで、本研究を遂行する第一段階として、(1)口腔発癌のプロモ-ション物質検出条件の設定と並行して、(2)尿中プロモ-タ-物質(Cancer Res 1983:43:1774)のEGFとの関連性を検討した。(2)に対して、ラット尿よりゲル濾過で得た、in vivoにて膀胱発癌を促進する分画につき、ポリアミン合成の律速酵素であるオルニチン脱炭酸酵素(ODC)誘導活性とEGFレセプタ-の競合活性を指標に、各分画について測定を行った。その結果、ODC誘導活性とプロモ-ション作用の強い分画(分子量54Kdと6.1Kd)にEGF活性を認めた。ODC活性は抗EGF抗体で完全に抑制された。プロモ-タ-物質検出の一指標としたODC誘導活性の主役は尿中EGFであり、この分画のプロモ-タ-作用にEGFの関与が示唆された。この結果をふまえ、ヒト尿より調整したEGFを用いたEGFを用いた実験を行っている。(1)に関して、dimethylbenzanthvaceneの0.5%溶液をハムスタ-頬襄に週2回で10-12週塗布することで腫瘍形成を確認した。そこで、8週塗布でイニシエ-ション処置を終了し、顎下腺摘出と非摘出の動物の頬襄に90%グリセリンに溶解したEGF(0.2mg/kg)を塗布し、粘膜表面から投与されたEGFの口腔発癌への効果を検討している。
|