研究概要 |
上皮増殖因子(EGF)は強力な細胞増殖因子で、マウスでは顎下腺が主要産生臓器であり、唾液中にも高濃度に検出される。シリアンハムスタ-頬襄に9,10ーdimethy1ー1,2ーbenzanthracene(DMBA)を塗布し誘発する口腔発癌系を用いて、顎下腺摘出と顎下腺摘出後のEGF投与の腺瘍形成に及ぼす影響を検討した。6週令ハムスタ-を4群に分け、6週間の0.5%DMBA塗布後、2ー4群には顎下腺摘出手術を行った。その後、1と2群には生食の皮下投与、2群と4群にはそれぞれ、0.025mg/kgと0.25mg/kgのヒトEGFであるウロガストロン(UG)の皮下投与を週3回行った。UG投与8週後に、動物を屠殺し頬襄、胃、肝、腎を摘出した。体重ならびに肝・腎の重量に各群で差をみとめなかった。1ー4群の頬襄あたりの腫瘍数は、3.4,2.1,2.5,3.2であり、1・4群と2群との間で有意差(P<0.05)を認めた。腫瘍体積においても1・4群が高値を示した。更に、前胃腫瘍個数でも、1・4群が2群より高い値を示した。この結果より、顎下腺EGFは、ハムスタ-頬襄ならびに胃腫瘍形成に重要な役割を果すものと考えられた。頬襄腫瘍形成には複数の因子がプロモ-タ-として関与すると思われる。EGFと他の因子の関連につき研究を発展させるため、ハムスタ-頬襄発癌を促進すると報告されている単純ヘルペウスウイルス(HSV)を用いて、口腔HSV感染症に関する研究を行った。ヒト歯肉の器官培養系で、HSVの1・2型ともに同様の感染様式を示した。癌の分化療法に用いられるhexamethylene bisacetamide(HMBA)はHSV増殖を促進することによりHSVの再発病変を誘発する可能性が強く示唆された。これらの知見をもとに、HSV初感染と再発をハムスタ-で成立させ、EGFとの相加・相乗的効果を今後検討する方針である。
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