上皮増殖因子(EGF)は、強力な細胞増殖因子で、マウスでは顎下腺が主要産生臓器で、唾液中にも高濃度に検出される。動物実験系で皮膚・胃・乳腺・膵臓での発癌の促進因子としてEGFが作用する可能性が指摘されているが、口腔癌での効果は明らかにされていない。本研究は、平成元年度に、ハムスタ-頬嚢での発癌に必要な条件を検討し、6週間のDMBA塗布で、頬嚢上皮細胞はイニシエイトされているが、未だ腫瘍形成に至らない段階にあることを確認した。平成2年度では、6週間でDMBAを終了し、次に、顎下腺摘出あるいは顎下腺摘出とヒトEGFであるウロガストロン(UG)投与の頬嚢腫瘍形成に及ぼす影響を検討した。顎下腺を摘出した群としない群との比較で、頬嚢あたりの腫瘍個数に差があり、腫瘍体積でも4倍の差があることから、顎下腺摘出は、腫瘍発生と増殖に抑制的に作用することが明らかとなった。顎下腺摘出後にUGを0.25mg/kg週3回投与すると、顎下腺摘出による腫瘍数の減少が、倍分的に回復することから、頬嚢腫瘍系において顎下腺のEGFが重要な働きをするものと考えられた。今後、EGFと他のプロモ-タ-因子との関連につき研究を発展させる必要があり、平成2年度では、ハムスタ-頬嚢系でプロモ-タ-作用が報告されている単純ヘルペスウイルスに関しても研究を行った。ヒト歯肉の器官培養系でのHSV感染実験で、歯肉組織はHSVの1・2型ともに同様の感受性を示すことが明らかとなった。また、癌の分化療法に用いられるhexamethylene bisacetamide(HMBA)はHSV増殖を促進することによりHSVの再発病変を誘発する可能性が強く示唆された。これらの知見をもとにし、HSV初感染と再発をハムスタ-で成立させ、EGFとの相加・相乗的効果を今後検討する方針である。
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