予備実験で開発した実験系を用い、生後3週齢のウイスタ-系ラットの上顎臼歯に、歯や歯槽骨の破折を伴わない範囲で最も強い脱臼様損傷をほぼ均一に与え、そのまま放置した。術後14日から56日までの歯および歯周組織、歯槽骨を病理組織学的に観察し、平成元年度で得られた術後1時間から14日までの結果と合わせて、脱臼歯の長期にわたる病理変化を明らかにした。その結果、受傷時に様々な損傷を受けた歯根膜は圧迫側で14日、牽引側では10日までにほぼ完全に治癒した。術後5日頃から認められだした歯根吸収は、歯根表層に限られるものの、歯軸にそって拡大する傾向を見せ、圧迫側で術後56日になってもなお吸収窩の辺縁部に多核巨細胞の存在が認められ、歯根吸収の継続が示唆された。しかし、牽引側では術後56日には吸収窩のすべてがセメント質で被覆されていた。歯髄は一般的に受傷直後でもほとんど障害が認められず、一部の歯で歯冠部象牙芽細胞が細管内に引き込まれているのが見られるのみであった。これらも術後5〜6日でほとんど認められなくなった。ところが、術後7日を過ぎると一部の歯では歯髄腔天蓋部に不規則象牙質の形成が認められるようになった。また、術後21日頃になると頬側歯頸部歯髄にdenticleが出現する歯もかなり認められた。これらの結果は小児歯科臨床で多く遭遇する脱臼既往歯の歯根吸収や歯髄腔狭窄の病態を理解する上で大変示唆に富むものであった。現在、より軽度な脱臼様損傷を作り、歯および歯周組織、歯槽骨の経時的な病理変化について検索中である。
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