研究概要 |
イギリス海峡に生息する海綿の1種Hymeniacidon sanguinea Grantの構成成分6-imino-1.9-dimethyl-8-oxopurine(I)は、1985年にCi-minoらによってN__ー^6-acetyl誘導体の形で上記の海綿から単離されたが、Iそのものは未知のままである。Iは、天然プリン類としては珍しい8-oxo構造を有しているので、その生物活性には興味が持たれる。本年度の研究においては、Iを次のようにして合成し、その化学的性質を調べることができた。 1.9-Methyladenine(II)を臭素化し、得られた8-bromo-9-methyladenine(III)をMeIでメチル化、生成した1-methyl 化体のHI塩を遊離塩基に導いて8-bromo-1,9-dimethyladenine(IV)を得た。IVを沸騰酢酸中NaOAcで処理すると、標的化合物IがIIからの通算収率25%で得られた。別法では、IIIを1N__=NaOH水溶液中で煮沸し、生成した9-methyl-8-oxoadenine(V)をMeIでメチル化したところ、IIからの通算収率63%でIを合成することができた。Iは、融点300℃以上の針状結晶で、各種スペクトルでその構造の正しさを確認することができた。上記の8-Br体(III)及び8-oxo体(V)のメチル化における1位配向性は、8-体8(II)の場合と同様であったことが、結果としてはIの短工程合成を可能にしたことは興味深い。 2.このようにして得られたIは、1N__=NaOH水溶液中で煮沸するとDimroth 転移を起してN__ー^6,9-dimethyl-8-oxoadenineを与えた。IVも同様のDimroth転位を起すことが判明した。これらの転移の容易さを、1,9-dimethyladenine(VI)を基準化合物に用いて反応速度論的に比較したところ、pH7.00-11.42,40℃、イオン強度1.0では、IV>VI>Iの順で転位が遅くなることが判った。この知見は、将来Iを天然源から単離する研究に役立つであろう。
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